1. IIDA top >
  2. 活動報告 >
  3. 2014年 >
  4. 初夏の京都を行くWA・A Design Project 視察ツアー1泊2日で巡る京都・芦屋の旅「退蔵院 襖紙プロジェクト」

活動報告

初夏の京都を行くWA・A Design Project 視察ツアー
1泊2日で巡る京都・芦屋の旅「退蔵院 襖紙プロジェクト」(2014.7.1)

6月16日火曜日、京都【妙心寺退蔵院方状襖絵プロジェクト】見学が実現しました。昨年のIIDA30周年記念イベント「NIPPON DESIGN」に引き続き、日本襖振興会の皆様のご尽力です。 朝10:00に新都ホテルフロントで集合。ご準備いただいた会場での勉強会に向かいます。

午前中は「襖と和室文化」について、襖の構造、襖紙、引手、縁など、たくさんのサンプルを見ながら、実質的な研修を受けることができました。

終了後、臨済宗大本山妙心寺に移動。現在の京都で一番広いお寺の境内には、46もの塔頭があり、そのなかでも退蔵院は600年の歴史をもつ古刹です。枯山水のお庭や見事な枝垂桜で有名です。

退蔵院のお座敷で精進料理をいただき、そのあと方状(本堂)で副住職松山大耕師から【退蔵院襖絵プロジェクト】についてご説明を受けました。

退蔵院本堂の現在の襖絵は安土桃山時代の狩野了慶作。中国の山水画を模した絵柄ですが、描かれてから400年の時を経て確かにかなりかすれています。松山大耕氏の発案で、2011年から、了慶作の襖絵の保護と、新たな襖絵64面の製作を目的としたプロジェクトが始まりました。現在進行中で、伺った時は絵師のアトリエである別の塔頭、壽聖院の本堂の襖が完成した段階でした。昨年来日されたIIDA 本部CEO のシェリルさんも見学しています。

そのあと、公募で選ばれた絵師、村林由貴さんが作業場にしておられる壽聖院で、ご本人からお話を伺いました。

まず一番新しい作品である、壽聖院本堂の襖絵を見せていただきました。雀と稲穂です。たくさんの雀たちが稲穂の上を軽やかに飛び交い、地面の落穂の周りに集まっています。たっぷりとした余白に、暖かな日差しが感じられ、柔らかな筆さばきの雀が本堂を自由に飛び回っているようです。

続いて、奥の書院やお茶室の襖絵を見せてくださいました。婦人雑誌などで見たことのある襖絵です。昆虫と植物の春から冬への移ろい、滝のぼりの鯉、天女(菩薩?)と蝶が舞う天上界、など、様々なテーマです。こちらは画面全体が絵柄で埋め尽くされています。近づくと繊細な線なのですが、離れてみると大変ダイナミックです。実物の襖絵は写真とは全く違う印象でした。若々しい圧倒的なエネルギーが溢れています。

書かれた時期ごとに、作風がどんどん変化しています。 作者ご本人から作品の作風の変化の説明を受けるという、大変面白い解説を伺うことができました。

最後にロール紙の習作帳を見せてくださいました。 1本は雀ばかり、一体何羽いるのでしょう・・墨汁を使っているとのことで、線が強いです。もう1本は、カラフルなカエルが遊んでいます。こちらは村林さんの息抜き用だそうです。とってもかわいい!

京都造形芸術大学大学院卒業とはいえ、墨絵を描いたことがない若い方が、一から伝統工芸の勉強をし直し、全国行脚をしながら日本文化の先輩たちと真摯に向き合っておられます。 若い作家の成長をゆっくり見守る後援者(パトロン)であるお寺と、目を見張るほど鮮やかに変化されている一人の女性の力量に、びっくりしました。松山大耕副住職のお話は興味深いものでした。

当日いただいたパンフレットをもとに、この襖絵プロジェクトについて、おこがましいのですが、理解できた範囲ではありますが、まとめてみました。

パンフレット
タイトル:最先端は伝統にあり
世界を驚かす日本の襖
講  師:退蔵院副住職松山大耕師
日本襖振興会第1回会員大会記念講演 (名古屋2013年8月)

日本の文化(襖という生活用品にしても、寺院という文化財にしても)を後世に伝えていくために、

  1. 人材を育てることに主眼を置く:
    後援者・パトロン(お寺)は腰を据えて、アーティスト(お抱え絵師)の成長をみまもる。このプロジェクトでは、公募で年齢にとらわれず絵師を決定され、お給料が支払われています。絵師、村林さんはお寺に住み込み、和尚さんと同じ修行をしながら、襖絵を描かれます。当初の完成の予定はすでに過ぎています。退蔵院の本堂にとりかかるまであと2、3年は少なくともかかるとのことでした。
  2. 300年、400年先を見据えて、プロジェクトを構築する:
  3. 若い人に、ベストの技術や伝統の技に接してもらう:
    和紙、襖、墨、筆、すべて最高の品を用意されたそうです。襖貼は経験者の指導のもと、若い職人の方に依頼されています。緊張感のある画材が、迫力のある絵を生むと考えておられます。
  4. インターネットやフェイスブックを活用し、バイリンガルで発信する:
    襖絵プロジェクトのHPは英語バージョンもあります。 国内の関心も高いのですが、国籍を問わず見学者があるそうです。ニューヨークに住むインドネシアの石油王から襖絵の依頼があったそうです。
  5. 時代に合わせて変質させることを考えるより、本質を固持する:
    さらに、その製作過程をアピールする:【手間をかけることの価値】をアピールすることが重要だと、講演を締めくくられています。

梅雨のまっただ中でしたが、幸い雨に降られず、またとない体験をすることができました。

塩田英子

INDEXに戻る

ページ上部に戻る