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会員の視察・旅行記

吉田亜希子のUSA JOURNAL 2015年11月号(2015.11.1)

ここ1週間くらいの内にぐっと街の木々も紅葉し始め、バージニアの美しい秋が始まりました。ハロウィンを筆頭に始まるアメリカのホリデーシーズンもいよいよスタートし、仮装パーティーや、フード&ビアーフェスティバル、リンゴ狩りや、コンサート等など、、街では様々なイベントが開催されています。私も最近は映画やコンサート等、芸術の秋を満喫。来週は食欲の秋も制覇すべく(笑)、近所の商業施設で開催されるハロウィンのカクテル&フードイベントに行ってみようと楽しみにしています。

さて、今月は、ワシントンDCの見どころ第3弾。以前にも、5、6月号と2回に渡って様々な場所をご紹介しましたが、アメリカの歴史が詰まったDCには、まだまだ素晴らしい場所が沢山。また、低層建築物が多く、空がとても広いDCは、季節や天気によっても全く違う一面を見ることが出来ます。

今回ご紹介するのは、DCを流れるポトマック川に隣接する入江、Tidal Basin (タイダルベイスン)の岸辺沿いに位置する記念碑の数々。1912年、日本からDCへ贈られたことで有名な桜も、その多くはこのタイダルベイスンの岸辺に植えられており、春になると満開の桜が圧巻の場所です。勿論、桜以外の季節も、タイダルベイスンの水面越しに見えるワシントンモニュメントや、対岸から見るジェファーソン記念堂など、自然と建造物のコントラストが美しく、いつ行っても神秘的な景色に癒やされる素晴らしい場所。秋風が気持ちの良かった10月中旬のこの日、この入江のほとりをのんびり散歩しながら観光しました。

<桜 寄贈記念 石灯籠>
前述の通り、1912年、日米友好の印として日本からアメリカへ贈られた桜。その最初の苗木は、当時のアメリカ大統領夫人ヘレン・タフトと珍田日本大使夫人の手により、このタイダルベイスン畔に植樹されました。そしてその後、1954年に日米和親条約100周年の記念として日本から贈られ同場所に設置されたのが、この石灯籠。徳川家光の時代に造られたもので、元々は徳川将軍家の菩提寺と言われる寛永寺にあったもの。ちなみに この石灯籠、寛永寺にあった頃は2基1対で造られ設置されていたそうで、現在もう1基は、京都の白龍園に移設されているとのこと。紅葉が美しいことでも有名な白龍園。春と秋、桜と紅葉を、遠く離れた日本とアメリカで、それぞれ対の灯籠が照らしているなんて、何だかとても感慨深い気がします。

<Martin Luther King, Jr. Memorial : マーティン・ルーサー・キングJrメモリアル>
石灯籠からタイダルベイスンを反時計回りに歩いて5分の場所に、マーティン・ルーサー・キングJrメモリアルがあります。2011年夏に完成したばかりのこのメモリアル。当初は、歴代アメリカ大統領以外の記念碑は無かったこのタイダルベイスン周辺。キング牧師の記念碑を建てることには反対の声も多かったとのことですが、一方で、この場所に設置されることが強く要望されたのには大きな意味があります。下記の地図を見ていただくとよく分かりますが、このメモリアルは奴隷解放の父と呼ばれるリンカーンと、アメリカ独立宣言の起草者であるトーマス・ジェファーソン、それぞれのメモリアルを結ぶ直線上に位置しているのです。人種差別撤廃と、自由獲得の為の独立。それぞれの理想を受け継いたキング牧師の偉業を讃える国民の想いが、彼の像をこの地に立たせました。
また更に、特徴的なのが像のデザイン。キング牧師が巨大な岩から切り出され、前方へ進み出た様なその形は、有名な 「I have a dream」 の演説の中で述べられた 「With this faith, we will be able to hew out of the mountain of despair a stone of hope. (この信念によって、我々は絶望の山から希望の石を切り出すことができるだろう)」 という一節に基いて造られました。またその像を取り巻くように設置された石壁にも、キング牧師がその生涯で残したスピーチの中から14の言葉が刻まれています。

<Franklin Roosevelt Memorial : フランクリン・ルーズベルト メモリアル>
マーティン・ルーサー・キングメモリアルから、タイダルベイスンを更に反時計回りに5分歩くと、フランクリン・ルーズベルトメモリアルが現れます。ルーズベルトは、世界恐慌、第二次世界大戦時のアメリカ大統領で、彼のニューディール政策や経済政策は、アメリカを世界恐慌のどん底から回復させたと評価されており、歴代アメリカ大統領の人気投票では毎回上位5位以内に入る国民にも人気の大統領です。
さて、このメモリアルは他のそれとは少し趣が違い、ルーズベルト大統領が在任した12年間に起きた出来事やその時々の彼の姿を、銅像やレリーフ等で表現し、緑多い散策路の中に配した公園となっています。北側の入口から南側の出口までのんびり順に散策すると、年表の様にアメリカの歴史が順を追って学べる、とても美しい、贅沢な空間でした。

<Thomas Jefferson Memorial : トーマス・ジェファーソン メモリアル>
ルーズベルトメモリアルからタイダルベイスンを更に南下して15分、今回の観光の一番の目的でもあったトーマス・ジェファーソン記念堂が見えてきます。前述のキング牧師のところで触れた通り、第3代アメリカ大統領であるトーマス・ジェファーソンは、アメリカ独立宣言の起草者であり、共和制の理想を追求したことで、最も偉大な大統領の一人として尊崇を集める人物。「アメリカ合衆国建国の父」 とも呼ばれています。
非常に博学であったジェファーソンは、政治学は勿論、考古学、生物学、発明家等としての顔も持ち、中でも建築家としては、自身の邸宅や、設立大学の建築デザインを行ったことでも有名。そんなジェファーソンが好んだローマ神殿風のパラディオ式建築によって、1943年生誕200年を記念して、このメモリアルが建てられました。
DCの様々な場所から望み見ることの出来るこの白亜の荘厳な建物は、リンカーンメモリアルやワシントンモニュメント等と並び、このDCを象徴するランドマーク的な建造物となっています。
階段を登り、荘厳な神殿風の柱の間をくぐり抜けると、中央には5.8メートルもの巨大なジェファーソンのブロンズ像が。そして像の周り、建物の内壁には独立宣言の一節や、ジェファーソンの手紙、バージニア知事であったころの自伝など、数多くの資料からの文章が抜粋され、刻まれています。またその内容も、最もよく知られる独立宣言は勿論、宗教の自由から、奴隷制度廃止の必要性、時代に応じた憲法改正の必要性など多岐に渡り、ワシントン、リンカーンに次いでアメリカ国民に愛される歴代大統領の一人だというもの納得の、非常に平等で先進的な考え方の持ち主であったことを伺わせます。

このように、タイダルベイスン周辺を半周、半日のんびりと散策するだけでも、美しい景色と多くの歴史を感じることの出来るDC。またそれぞれの記念碑に讃えられる歴史上の人物達が、教科書の中だけで学ぶよりもずっと身近に、そして現在のアメリカを創った人物の一人であると、よりリアルに感じられました。石碑や石像を設置するだけに留まらず、ランドスケープデザインや、より感覚に訴えるデザインの発想やアイデアも含めて、訪れる度に街全体が美術館である様な印象を受けるこの街。春以降、久しぶりに観光に訪れて、またその魅力をより感じた1日となりました。

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