会員の視察・旅行記
吉田亜希子のUSA JOURNAL 2016年4月号(2016.4.1)
記録的な大雪に見舞われた今年の冬もすっかり終わりを告げ、街の木々には花や蕾が付き始め、またバージニアの美しい自然が感じられる季節となってきました。ワシントンDCの桜もそろそろ蕾をつけ始めたとのこと。いつの週末が一番の見頃かな?なんて言う話題が、アメリカ人同士の会話やニュースでも話題に登っている様子を見る度、日本から送られた桜が春の風物詩として強く根付いているのだなぁと感じ、日本人として勝手に(笑)少し誇らしくなるこの季節です。
さて今月のUSA JOURNALは、先月旅行をしたカリフォルニア州ヨセミテ国立公園と、宿泊した公園内のAhwahnee Hotel(アワニーホテル)についてご紹介します。
Apple社Mac用OSの名前としても使われたYOSEMITE。Macの壁紙に使われていたその壮大な景色を見て、いつか必ず訪れてみたいと思っていた国立公園の一つです。ユネスコの世界遺産にも登録されているこの公園は、その広さ東京都の約2倍!。そそり立つ花崗岩の絶壁、そこを豪快に流れ落ちる滝の数々、ジャイアントセコイアの林、そこで息づく様々な動物達…。ダイナミックな自然の素晴らしさと、そのスケールの壮大さに、ただただ圧倒される本当に美しい場所でした。特にその壮大さが圧巻のEl Capitanは公園内にある岩山で、約1000メートルもある世界一の、一枚岩の花崗岩。途方も無く長い年月をかけ氷河に削られて出来たその垂直の岩壁は、正に自然が作り出した芸術。言葉も出ないその迫力は、本当に胸に迫るものがありました。
そんな美しいヨセミテ国立公園内の、ヨセミテバレーに建つAhwahnee Hotel(アワニーホテル)。アメリカの国家歴史登録財や国定歴史建造物としても指定されているこのホテルは、1927年の開業から今日まで実に90年近くもの長い間、ヨセミテを訪れる人々の癒しの場所として愛されてきました。過去にはジョンFケネディや、イギリスのエリザベス女王、ウォルトディズニーやスティーブジョブズ等、多くの著名人もこのホテルを利用したとのこと。
建築は、イエローストーンやグランドキャニオンなどアメリカの国立公園内のホテル建築を多く手がけた、建築家のGilbert Stanley Underwood。 私も今回初めてその言葉を知ったのですが、このアワニーホテルは「Parkitectureの傑作」とも呼ばれています。Parkitectureとは20世紀初頭から中頃にアメリカの国立公園にて発展した、自然保護と、その景観との融合を考えてデザインされた建築物(Park+Architecture)のこと。木や石等の自然素材を使い、その土地の歴史や文化を継承するデザインによって、荘厳な美しい自然の中に溶け込み共存する建築。前述のUnderwoodはこのParkitectureの巨匠でもあり、このアワニーホテルを筆頭に数々の美しい建築物を残しています。
ちなみにホテル名にもなっている「Ahwahneeアワニー」とは、過去ここに住んでいたネイティブアメリカンがこの土地を「大きな口」を意味する「Awooni」と呼んでいたことから来ています。1800年代にヨーロッパの冒険家がこの土地を発見するまでのおおよそ8000年間、ここヨセミテバレーは多くのネイティブアメリカンが暮らす土地でした。そしてその文化や歴史を今に伝える為、このホテルのインテリアには多くのネイティブアメリカン由来のデザインが施されています。その多くが、インテリアデザイナーの1人として起用されたJeannette Dyer Spencerによるもの。エレベーターロビーの暖炉上の美しい壁画、グレートラウンジの素晴らしいステンドグラス、シュガーパインのビームに施されたステンシル、バトルシップリノリウムの床にデザインされたモザイク柄など…。手編みバスケットを始めとする先住民の民芸品に残された美しく神秘的な柄。そこからインスピレーションを受けたそれら美しいデザインの数々に囲まれ過ごす時間は、まるでこの大自然と共に暮らしていたネイティブアメリカンの息づかいが聞こえてくる様でもあります。
またインテリアデザインにおいてもう一つ特筆すべきは、ホテル内各所に敷かれ、飾られている素晴らしいペルシャ絨毯やトルコキリムのタペストリーの数々。インテリアデザインの総監督者であったArthur Upham Popeが、ペルシャやイラン等、中東アートのパイオニアであったことから、ここアワニーホテルは前述のインディアンのデザインと共に、中東やアールデコ等の要素も絶妙にミックスされたスタイルとなっていますて。そしてそれらの絨毯は、全てこのホテルの為だけに織られたオリジナル品。長いホテルの歴史の中で本来の役目を終えたものでも、その後、壁に飾られたり、柄の一部が切り取られ客室を飾るアートにされたりと、大切に継承されています。
自然と建築の融合—。このアワニーホテルを見ていると、昨年訪れ7月号でもご紹介をした、フランクロイドライトの落水荘を度々思い出しました。山小屋風のアワニーと、モダンな落水荘はスタイルこそ全く違いますが、自然と絶妙に溶け合ったその荘厳な佇まいは、自然と人間の共存という意味において共通の願いが込められている様に感じます。また、その場に立った時、外国人でありながら何故か感じる「懐かしさ」の様な感覚も非常によく似ていました。アイデンティティーや理屈を越え、人間として心で感じるその感覚や感動は、どこの国で育っても共通のものなのだなぁと感じ、壮大な自然の素晴らしさと共に、また改めて建築やインテリアデザインの力、奥深さも感じた今回の旅となりました。