会員のお仕事
Designer’s House / Designer’s Project
デザイナーの住まい・仕事 vol.12 特別編
松戸ボックスヒル歯科 Design by Eriko Hosoi
女性をターゲットにしたホテルライクなクリニック
IIDA Japan Chapterメンバーの住まいや手がけた物件を紹介するDesigner’s House/Designer’s Project。
今回は細井絵理子さんが手がけたデンタルクリニックのプロジェクトをご紹介します。
text & photographs: Eriko Hosoi
cooperation:医療法人社団 和晃会 松戸ボックスヒル歯科
所在地/千葉県松戸市松戸1181 アトレ松戸店8F
個人邸やオフィスのデザインが多かった私が、独立して最初に取り組んだ病院のプロジェクトは2004年のこと。それ以来、歯科、皮膚科、内科、鍼灸院、エステサロン. . . とホスピタリティ・デザインをさせていただく機会が増えました。今回は私にとって記念すべき、その最初の物件ご紹介させていただきます。
この物件で私が担当させていただいたのはインテリアデザイン全般です。基本レイアウトと設備設計、及び施工は幾つものプロジェクトをご一緒させていただいている株式会社ニーズ装業の小野寺寛明氏です。
駅にあるファッションビルという立地
このクリニックが入っているJR松戸駅の駅ビル(旧 Boxhill松戸店 現 アトレ松戸店)は、女性に人気の専門店が数多く入るファッションビルです。そこでこのクリニックの立ち上げ時に、その駅ビルに訪れる女性客をターゲットにしたいとお話があり、女性客が入りやすく、且つ歯の治療という心理的ストレスを軽減出来る、落ち着けるデザインにしようとコンセプトワークしました。
駅ビルの最上階でエスカレーターを上がるとすぐ見える場所。しかしテナント数がこの階のみ少なく、下層階の賑やかで華やかなイメージとは異なる若干淋しい雰囲気が否めないフロアです。そこで、通路に面した壁面を大きなクリアガラスとし、クリニック内が見えるようにプラン。閉塞感が出ない明るく開放的なデザインをというオーナー側の要望に応えています。
既存の円柱を利用したサインとファサード。
竣工前の写真なので、通路側の照明が落ち暗く見えますが、実際には円柱のアクセントカラーと待合室の照明が目を引く、明るいデザインに仕上っています。円柱右手に入口とガラスの開口部があり、受付と右側の待合いコーナーも外から見える造りになっています。
患者さんがそこにいることを楽しめる空間に
その当時のクリニックのデザイン潮流は、どちらかと言うとモダンでスタイリッシュなデザイン。白い空間にデザイン家具を配し、木目やメタル、ガラスをアクセント使いするというタイプが注目され、人気を集めていました。都心のオフィス街にあるクリニックであればそのような尖ったデザインもぴったりですが、このクリニックは郊外に位置し、学生から主婦まで幅広い年齢層の女性客が訪れる駅ビルにあります。そこで、待合室のコンセプトを「ホテルのラウンジのようなくつろぎの空間」とし、治療を待つ間、不安な気持ちにならないよう落ち着ける色や素材を多用しました。歯の治療とは憂鬱なものです。その気持ちをこの待合室にいる間は忘れられるよう、木目パネルやガラスモザイクタイルを使って壁面をデザインし、大きなRを描く壁面にはニッチを設けて花器等を飾りました。また、ブラケットライトやペンダントライトを用いて光の演出も加えています。
待合室左手。
木目の格子デザインとガラスのモザイクタイルで“病院らしくない”雰囲気を演出。
大きくとられたRの壁面の飾り棚。
輸入紙クロスを額装して壁面のアクセントに。
待合室造作。
バッグや読みかけの雑誌が置けるよう、サイドテーブルも設置。
受付。
壁面にガラスモザイクタイルを貼った受付カウンターとバッグ専用台。左手壁面には崩れにくいコルクを使用したオリジナルの掲示板を設置。
洗口コーナー。
アクリル板で待合いコーナーと仕切り、部分的に目隠しする。ファサードからも見える右手待合いコーナーにはペンダントライトを吊るし、光のアクセントを。
カラーバランスとサイン計画
待合室にはキッズコーナーを設けています。低い腰壁で区切られたその空間には子供達が大好きなキャラクターのタイルカーペットを敷き、カラフルなストライプ模様のクロスを使っています。待合室全体のカラーバランスを崩さぬよう、配色には気を使いました。そしてその腰壁の裏側には、出っ張りの無いアクリル板を使ったオリジナルの掲示スペースを設けました。病院では多くのポスターやお知らせが貼られます。それらが乱雑にところ構わず貼られることは、空間全体のデザイン計画にとってマイナスになります。そこであらかじめ、受付時や会計時に見て欲しいお知らせを貼る壁面と、患者さんが待っている間に読んでもらえる椅子の向かいの壁面2カ所に掲示板を設置しました。
キッズコーナー。
現在、キッズコーナー部分のガラス前には安全面を考慮し、木目の腰壁を立てています。
掲示コーナー。
腰壁にくぼみをつけ、バッグや服、身体が引っかからないようデザインした掲示板。椅子に座っている間に掲示物が読めるよう工夫。
診察室はクールカラーと明るい木目で
診察室は待合室よりトーンを全体に明るく変化させ、ライムグリーンやライトブルーを用い爽やかな色調でまとめています。診察室毎にコート掛けとバッグ置き場も設置しました。X線室は子供が怖がらないよう、壁面に工夫を。青空のクロスとボーダーで窓を模したデザインにし、閉塞感が出ないようにしています。
診察室とX線室。